
盗掘をおこなったダイバーが、証拠隠滅のためにダイナマイトで残骸を破壊するなどの行為も発生しているといわれています。このような悪質極まりないトレジャーハンターたちの行動を阻止できなかったのは、水中文化遺産の保護に関する国際法が長く存在しなかったからです。
陸上の文化遺産ついては、1975年に発効された世界遺産条約の存在からもわかるように、早い時期から保護の必要性が認識されてきました。しかしながら水中の文化遺産についての法整備が進まなかったのには理由があり、水中での探索や引揚げ技術が発達していなかったこと、水中考古学がほかの分野に比べて学術的地位が低く重要視されなかったこと、海底であるがゆえ調査や探査に陸上以上の費用と労力がかかること、などです。また領海以外の場所で船が引揚げられた場合の管轄権が不明瞭で、所有権を船の所有国が主張する場合もあり、発掘した者への所有権が明確になっていない場合もあります。
このように保護されるべき文化遺産が荒らされたり、また権利の曖昧さなどから訴訟問題へと発展するケースも存在します。

アフリカ大陸南東部に位置するモザンビーク島とその周辺の海は、1991年にユネスコ世界文化遺産に登録されています。旧ポルトガル植民地であり、大航海時代のヨーロッパとアジアを結ぶ重要な航路上にありました。島周辺の海にはその時代の貿易船が300隻以上沈没しているといわれています。本来なら保護されるべき遺産ですが、ドイツの企業がモザンビーク政府と独占契約を結び沈没船を引揚げています。当時の貴重な財宝などの積荷が次々と引揚げられ、歴史的検証もなされぬまま売却されていく現状をモザンビーク政府が放置する理由は、国の貧しい経済事情にあります。国費による文化遺産保護が難しいこと、また企業からの契約金により財政の補助ができるからです。国が許可を与えているとはいえ、文化遺産保護や水中考古学的観点を無視した商業目的のサルベージにユネスコは警鐘を鳴らしています。
2007年5月、アメリカ・フロリダ州に拠点を置く海底探査会社オデッセイ・マリン・エクスプロレーションは、北大西洋でコードネーム「ブラック・スワン」と呼ばれる沈没船から金貨、銀貨などの財宝600億円相当を「大西洋の公海内で見つけた」と発表しました。これに対しスペイン政府は、船は19世紀初頭に英国艦隊に撃沈されたスペイン軍艦「ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・メルセデス号」であり、沈没地点はスペイン領海であると主張、財宝は「スペインに帰属する歴史的な国家遺産である」としてフロリダ州裁判所に申し立てをしました。オデッセイ社は「積荷は貿易を目的としたもので、所有権は個人に帰属する私的財産であり国の所有物にはなり得ない」と反論。しかしアメリカ政府は全面的にスペイン側を支持、裁判では「メルセデス号」が国家帰属の船であることを知りながらも国際法を無視して引揚げをおこない、歴史的文化遺産をわが物にしようとしたオデッセイ社のモラルの欠如が指摘されました。オデッセイ社の申し立てに対し、「引揚げた財宝をスペインへ返還し和解するように」と勧告が下ったのです。その後、両政府をも巻き込んだ国家間の論争へとまで発展しました。
スペイン政府は回収した財宝を公的事業に活かしたり、博物館へ寄付するなど文化遺産として保護する方針を示しています。

